大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1177号 判決

主文

被告は原告に対して別紙物件目録記載の土地について、東京法務局墨田出張所昭和二一年九月二八日受付第三二二四号をもつてした被告のための所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

原告は、主文同旨の判決を求め、別紙のとおり請求の原因を陳述した。

被告は、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

よつて、被告が原告の主張事実を自白したものとみなし、それによれば、原告の請求は正当であるから認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

南〓飾郡隅田村大字隅田字大堤三六七番の一

一、宅地一〇一坪

別紙

請求の原因

一、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)は、もと原告の父親である訴外渡辺要造の所有するところであつたが、同人が昭和二〇年四月一五日戦災で死亡したため原告が家督相続をし本件土地の所有権を取得したものである。

二、然るに本件土地は原告の全く知らぬ間に被告のため所有権取得登記がなされている。

これは原告の相続当時、原告が小学校三年の少年であつたため原告の叔父に当る被告(原告の亡父の兄)が本件土地をほしいままにしようと当時被告の内縁の妻であつた訴外関口春(実質は原告が出生する以前から被告と夫婦関係にあつたもので単に届出のみが昭和二五年一〇月一〇日に至るまでなされなかつたもの)を原告の後見人として戸籍簿に届出た上、同人から昭和二一年九月二八日本件土地を譲り受けた旨仮装し所有権取得登記を了したものである。

三、しかし、被告のなした右後見人の選任は次の理由により何ら法律上の効力を有するものでなく従つて右後見人による本件土地の売買行為もまた何等効力なきものというべきである。

即ち原告に後見人が必要となつたのは原告の父親が死亡した昭和二〇年四月一五日であるが、当時の民法によれば後見人の選任は第一に最后の親権者が遺言で後見人を指定した時(旧民法第九〇一条)、第二に指定なき時は戸主が後見人となるが(同第九〇三条)、第三にそれもなき時は親族会が選任することとなつていた(同第九〇四条)。

そこで原告の後見人は親族会により選任されるべきところ、被告は他に数人いる親族には全く無断で自己の妻春をあたかも親族会が選任した後見人であるかのようにして届出たものであつて、このことは当時の民法が親族会員の選任及び第一回の親族会の招集は裁判所が行う(同第九四五条第一項同第九四四条)ということを全く無視したものであつて結局、右後見人の選任は親族会により選任された正当な後見人ということが出来ず右選任行為も、もとより当然無効というべきである。

蓋し適法な親族会の構成がなかつたものだからである。

而して何等後見人として適法な資格なき右被告の妻が原告を代理して法律行為をなしてもその効果を原告に及ぼす理なきは当然である(大審院明治三六年五月一六日民録九輯五七一頁は「適法の後見人存在せざる場合において後見人と称する者のなしたる法律行為は代理権なき者が之をなしたるにほかならざるを以て当然無効なり云々」と判示している。四、仮に被告の妻春が適法に選任された原告の後見人であつたとしても、元来後見人は被後見人の財産を保護することをその任務とするものであるに拘らず被後見人が相続により取得した唯一の財産である本件土地を自己の夫である被告に譲渡(売買といつても名目のみで代金の授受など全くなかつた)するのは後見人としての任務に背くものであり、この点からみても被告が原告の保護のためでなく、告原の所有する本件土地を取得するためにのみ右春を後見人にしたことが明らかである。斯かる後見人の乱用的処分行為は自己の夫たる被告従つて後見人自身の利益を図るがために被後見人の利益を犠牲にするものであつて、正に後見人被後見人間の利益は相反するというべくこのような場合には「後見人は被後見人を代表するの権限を有せず後見人が被後見人を代表して如上の行為をなしたる時は其行為は之を無効……云々」(大審院大正二年七月三日民録一九輯六〇四頁)というべきである。

五、よつて原告は被告に対し、被告が本件土地に付なした請求の趣旨記載の所有権取得登記の抹消を実体関係に符合せしめるため求める権利があり本訴に及んだ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例